作詞家になりたくて

歌になりたがっている詞があります。 
言葉たちが一瞬でも輝やいてくれますように!

「大事なことほど小声でささやく」森沢明夫 著

最近読んだ本の読書記録として、折々に感想などを書いていきたいと思います。
今回は森沢明夫著「大事なことほど小声でささやく」

森沢明夫といえば高倉健主演の映画「あなたへ」の原作を書いた作家です。
刑務官だった主人公が、妻の遺骨を海に散骨しようとする、高倉健の最後の映画でした。原作は映画と違っていましたが、しみじみとした良い小説でした。
その森沢明夫が書いた人情小説。
とても人の心を掬い上げるのが上手な作家さんです。トレーニングジムに通う顔見知りの人達の6人、それぞれの物語が語られます。みんな何らかの悩みや問題を抱えているものの、トレーニングジムでは笑いあい、冗談を言い合い、全く普通。まあ、個性的ではあるけれど、普通のサラリーマンだったり、男子高校生だったり、歯医者さんだったり、小さな広告代理店の社長だったりする。でも、そこで異彩を放つのが身長2メートル近くもあるオカマで、スナックひばりの通称「ゴンママ」。ゴンママを取り巻く5人の物語と言えるかもしれません。
中でも歯医者さんの物語は、泣かせてくれます。読みながら涙が止まりませんでした。
3年前に娘を小児がんで亡くした後、夫婦の仲は完全に冷え切っていて、そのつらさを埋め合わせるように、饒舌になっている歯科医の先生。
それだけで、何かもう、涙の予感がしませんか?
歯科医の先生が自宅で見つけたもの、それは亡き娘が残したメッセージ。部屋中のそこかしこに残してくれた娘の悪戯書きでした。
オカマのゴンママはそんな歯科医の先生を温かく見詰めています。ゴンママからの言葉。
「人間は悲しい時には泣いてもいい」
泣かない、いや泣けないことで、苦悩していた歯科医の先生が、泣くことで冷めきった夫婦の間を元に戻していくのか、心の葛藤が描かれて、涙を誘います。
6章に分かれていて短編形式になっています。気軽に読めて、なおかつ中身の濃いストーリーで、一気に読めました。
一つ文句をつけるとすると、本のタイトルかな。小説の中の台詞の一つなのですが、一度きりしか出てこないから、印象が薄い。小説を物語るタイトルではないような気がして、ちょっと不満。
 でも、とてもいい小説でした。
殺人事件も、悪人も、探偵や刑事も出てこない、全く「いい人」と「普通の人」しか出てこないけれど、笑えて、泣けて、考えさせられてと、一冊でとても楽しめました。
いい人ばかりの物語って、書くのも難しそうです。でも、この作家さんは、良く書いてくれました。流石です。
高倉健の「あなたへ」も良かったけれど、私はこちらのほうが好きです。
ドラマにしたら面白いのにね。
人情小説って、また古臭い言い方ですね。いまはなんていうのでしょうか。「ハートウォーミング」な小説。とでもいうのでしょうか。
よろしければ、読んでみてくださいね。
(本の表紙が黒猫なんです。表紙買いかもしれません)
(黒猫も小説に出てきます。結構重要な役割ですよ。)

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